■ 伏高お客様に聞く - 料理屋なかむら(相模原市)
(「なかむら」について) 神奈川県 相模原市 田名地区(工業団地)にある、京風の創作懐石の和食店。平成10年に開業。今年で13年目。全体で40席(カウンター8席)。スタッフは、中村氏、板前、女将、パートさん5名の合計8名。食べログで好評コメント多数(クリック)相模原商工会主催、地元市民が選ぶお店大賞で3年連続大賞を受賞するなど、味には定評がある。中村氏は、奈良の名店、菊水楼で10年間の修行の後、この店を開いた。
おっしゃるとおり、ウチは正直、高級和食店としては、立地はよくありません。いろいろ事情があって、ここに店を開かざるを得なかったのですが、立地面では、やはりハンデがあります。 ― しかし、開店して今年で13年目。地元のお店大賞を3年連続で受賞。食べログでも「隠れた名店」として好評コメントが多くある。お店の経営は順調とお見受けしました。 ひたすら味を良くすること。この13年間、それだけに取り組んできました。ここは「通りがかりで、ふらりと立ち寄ってもらう」ことは期待できない立地なので、経営を続けて行くには、「おいしかったからまた来るという、リピート顧客」か、「あそこはおいしいという評判を聞きつけてきた、紹介顧客」を地道に増やすほか道はありません。 伏高のダシを使っているのも、ひとえに味をよくするためです。良いダシを使うことは、料理全体の味をよくするための、非常に有効かつ効率的な投資です。現在、当店では、伏高から、最高級の鰹節である「磨節(みがきぶし)」と、利尻と日高の最高級昆布とを、毎月5万円~6万円ほど仕入れています。
― 「味の向上のためには良いダシを使うのが有効かつ効率的」とは、具体的には?
※ キーワード1. 「なぜだかわかんないんだけど、でもおいしいんだよね」と言われるのが、いちばんリピートにつながる。 「なかむらで」は、月ごとにコースメニューを変えていますが、ありがたいことに、それを楽しみに毎月、来店してくださるお客様がいらっしゃいます。 このお客様の期待に応えるには、毎回、「おどろきと安心感」の両方を提供する必要があります。この場合、「おどろき」の方は、コース内容や食材そのものの変化でつくりあげ、一方、「安心感( = いつ来てもおいしい)」の方は、米、味噌、そしてダシという基本食材によって作り上げることになります。 ふつう食材に凝るという場合、「大間のまぐろ」「氷見の寒ブリ」「松阪牛」など、メイン食材に有名ご当地ブランドを使うというやり方が一般的です。このような、家庭では食べにくい、「非日常的な食材」を出せば、ハレ感、イベント感を高めることができます。これは確かに有効なやり方であり、「なかむら」でも取り入れています。 しかし、敢えて言うなら、「ブランド食材による差別化」はどんな店でもできます。リピート客を獲得する上で、本当に大事なことは、米、味噌、ダシなど、「家庭で食べられる日常的食材」を強化することです。「大間のマグロ」を出せば、「本場大間のマグロだから → おいしい」となり、ある意味、そこに驚きはありませんが、米、味噌、ダシなど目立たない部分を強化すると、「理由はわからないけれど → なぜかおいしい → さすがプロ(他の店とは違う)」という評価を得ることができるのです。お客様にとって「飽きない店」になるには、基本食材の味の底上げが必須です。 変なたとえかもしれませんが、魚や野菜などメイン食材は、音楽で例えれば、ギターやボーカルなどの派手で目立つ部分であり、一方、ダシや米、味噌などは、ベースの部分であるような気がします。ベースの低音がしっかりしている音楽は聴いていて「どこが派手ということもなくても、何かが違う。飽きない」という印象を持ってもらえます。料理でも同じことです。 ※ キーワード2. 薄味の京風懐石ではダシがとても重要
私はダシというのは、料理の味の「最後の着地点」だと思います。料理を口に入れる、まず魚や野菜などのメイン食材の味が口に広がる。それらの味が次第に消えていった後、最後に口に残る、余韻のような味。それを作るのがダシだと思うのです。 この余韻づくりが成功したとき、先ほど言ったような「なぜかは分からないけど、おいしい」という最高の褒め言葉がいただけるのです。 ※ キーワード3. 料理全体の味を底上げしたいと思うならダシに投資するのが効率的 日本料理、特に京料理は、ダシを非常に多く使います。コースを作れば、半分以上は、ダシを基礎にしたメニューです。ならば良いモノを使う方がよい。そもそも、ダシというものは、良い物を使おうが悪い物を使おうが、調理の手間は同じです。こう考えるならば、良いダシを使うことは、手間をかけずに、料理の味を向上させる効率の良いやり方だといえます。 実はダシを伏高の磨節に替えてから、費用は以前の1.5倍に増えています。しかし、私はそれを惜しいとは思わない。ダシへの投資に対しては、原価を切りつめろといつも口うるさい女将も何もいいません。女将も、ダシの重要性はよく理解しているのでしょう。
横浜の中央市場から仕入れていました。しかし、鰹節も昆布も、どちらも香りが今ひとつ。表面的な味覚があるだけで、口の中に最後まで残るような余韻、残響が感じられないことに不満がありました。 そんなある日、伏高から磨き節のダイレクトメールが届きました。さっそくサンプルを取り寄せたところ、さすが築地と思える味だったので、さっそく採用を決めました。「なかむら」としても、以前から築地の店とはどこかと付き合っておうべきだと思っていたので、伏高さんの営業は渡りに船でした。 ― 「築地の店とはどこかと付き合っておうべきだと思っていた」とは具体的には? まず築地にはやはりブランドがあります。筍を煮た料理を出したとして、お客様は最初は筍そのものの味に注目するでしょう。でも、もし「この筍おいしいですね」と言われたら、筍の話だけでなく、「ダシは築地から仕入れています」と告げれば、会話に説得力と厚みが増します。 また、どこか一店と付き合いを持っておけば、今後、築地の他の店から食材を仕入れる時に、その店の評判を聞くこともできます。そういう理由からも、伏高と付き合いを持っておくのは得策だと考えたのです。
― 伏高への今後の期待をお聞かせください。 「なかむら」は、これからも味一本で勝負する店として営業していきます。今日も言ったとおり、ブランド食材に頼るよりは、むしろ「なぜか分からないけど、おいしいよね」と言われる、「飽きの来ない店」を目指します。 ここで重要になるのが、今日お話しした、米、味噌、ダシという和食の基本食材です。その意味で、伏高さんの磨き節は、「なかむら」の味の基礎部分を支える非常に重要な食材です。これからも築地の名店の名に恥じない、最高のダシをご提供ください。今後とも良いおつきあいをしていければと考えております。
料理屋なかむらさんは、2015年3月、町田に移転し、六九和(ろくわ)さんという名の店となり、現在、予約の取りにくい店になっています。 ※ 六九和のホームページ ※ 取材日時 2011年5月 ※ 取材制作:カスタマワイズ |